チャコ逝く

2002年9月5日、小林さんが亡くなられたその時から11年。最後の一匹、チャコが先週の水曜日、10/3の午前9時40分に小林さん、ハル、チャタの待つ天国に旅立ちました。11年前の「とで川らばん」から当時を振り返りたいと思います。

 

戸手川らばん <FACE FACE> 小林吉道さん

先週の木曜日(9/5夕方)、部屋の中で3匹の犬たちに見取られ死んでいる小林さんが発見されました。前日の朝刊が室内にあり夕刊はポストに入ったままでした。小林さんは戸手に住まわれて30年程になるそうです。ご自身の過去について殆ど語る事のなかった小林さんとはどのような方だったのでしょうか。

区役所の調べで千葉にご兄弟がいる事が確認され、日曜日(8日)ご兄弟(5名)が戸手に来られました。各地を転々としていた小林さんからの連絡が途絶えて30年程になるとのことでした。

小林さんの残された3匹の犬は現在里親を捜している所です。飼い主を失った犬たちは毎日寂しそうな鳴き声をあげています。11日の夕方、一緒に散歩へ出かけました。それまでは堤防の散歩コースに連れて行きましたが、その日は犬たちが行きたい所へ連れてもらいました。犬たちは戸手アパートを抜けて河原

町団地方面に向かいました。団地の中を何度も曲がりながら複雑に進みました。時には、行き止まりのような所に連れていかれましたが不思議と道は続いていました。気がつくと細い緑道に出て団地の商店街に入りました。

そして犬たちは酒屋の前で立ち止まり動こうとしません。酒屋の主人が不思議そうに此方を見ています。私は主人に尋ねました「この犬たちを知っていますか」。「知っているけど、いつのもおじさんは?」。私が事情を話し始めると、既に4,5人の人に囲まれていました。どうやら此処は散歩の時の休憩地点であったようです。みなさん小林さんの名前も住んでいる所も知りませんでした。しかし誰もが知っている小林さんでした。みなさん泣いていました。小林さんの訃報を聞き、残された犬たちを心配して戸手を訪ねて来る人が後を絶ちません。ある女性は犬たちの姿を見つけるや否や泣きながら走りよってきました。餌を届けてくれる方もいました。みなさん犬の散歩仲間でした。小林さんは子犬が生まれたり、捨て犬を見つけると里親を捜し、あげていたようです。小林さんの死後今まで出会った人の中で小林さんから犬を貰ったという人が3名いました。きっと他にも大勢いることでしょう。

犬が大好きで、大好きを通り越し寝食を共にする文字通りの家族として犬と共に暮らしていた小林さん。そんな小林さんを知らない人は土手の中にはいません。しかし部屋の中に居る時以外は殆ど犬の散歩で土手の外に出ていましたし、自分の過去を殆ど語らない小林さんを、それ以上知る人もいませんでした。しかし犬を通して小林さんと出会った人々の証言と涙の中に小林さんの姿を再発見します。

最近、小林さんの調子が悪い事はみんなが知っていました。ご近所から再三病院へ行くことを勧められ、時には救急車まで呼んだことがあったそうですが、小林さんは頑なに病院に行くことを拒み続けて来られました。恐らく、病院へ行けば戻って来られない、そしたら犬たちの世話が出来ない、保健所に連れて行かれる、死ぬ時は犬たちと共に、犬たちを置いて一人病院のベッドで死ぬ事は出来ない、と。

あの最後は小林さんが望んだ最後であったと思います。そして命を掛けて「犬たちのことをヨロシク」と伝えたのだと思うのです。

(SY)

1926年(大正15年)2月4日(生)、

享年76、小林吉道。

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