守るべき一線

ナオミはルツにボアズと関係を持つよう企てます。当時、ナオミとルツ、即ち姑と嫁、女二人が生きていくには男が必要であり、ナオミは財力のある親戚筋のボアズに白羽の矢を立てました。

仕事を終え酒に酔って麦打ち場で横たわるボアズの足元にルツは身体を寄せました。それはナオミの指示であり、その後はボアズに身を任せれば良いとのことでした。眠りから覚め自分に気づいたボアズに、ルツは求婚します。しかしルツは関係を持つ前にボアズがエリメレク(ナオミの死んだ夫)の家を贖う親戚でその責任があることを説明します。これに対しボアズはルツの献身を賞賛し、エリメレクの家を贖う責任の順位を尊重し、自分より上位にあるものが責任を拒否した後に自らその責任を果たすことを約束します。そして二人はその晩、関係を持つ事はありませんでした。

二人は初対面ではなく、互いに好意を抱いていたのですから男女のそれはナオミの計画通りになっても良かったのです。しかしルツとボアズはレビラト婚(義兄弟結婚)という当時の筋を通しました。これはいわば、超えてはならない一線を守るという事でした。

ナオミは、ルツがボアズと先ず関係を持ち、後にレビラト婚の責任を迫る計画であったと考えられます。しかし、ルツとボアズは関係を持つことなく、それぞれの筋を通しました。これはナオミの意図は別にして、ルツとボアズは何かを大切にしたのです。それは単に性的倫理という狭い意味ではなく、自らの欲求を満たそうとする時、その前に踏まえること、越えてはならない一線というもの、そういうものをルツとボアズは大切にしました。しかしそれが今日大切にされておらず、なし崩しにされているように思います。

振り返れば、集団的自衛権の解釈改憲を認めてしまった事、あれが始まりでした。明らかにあれは禁じ手であり、越えてはならない一線でした。しかしその一線を越えてしまった時、人間は堕落の一途を辿るのです。

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