ヨルダン寮(2)

川の上に立つ不法占拠でトタン張りの家屋を500万円で買い取った関田牧師とそれを売った金萬守アボジ。この売買には後日談があります。
既に関田牧師と金萬守アボジとの関係は日常的な課題を通じて深まっていました。ある日、建設省が戸手四丁目河川敷内の不法建築物増加を防ぐため空き地に杭を打ち込みました。ところが当時古タイヤの回収業を営む金萬守アボジにとってその杭がトラックの出入りに障害となったのです。そこで金萬守アボジは建設省に掛け合ってその杭を移動してもらうよう関田牧師に相談しました。国が打った杭を河川敷に不法占拠する朝鮮人が仕事に支障があるので移動して欲しいという依頼を関田牧師は真面目に引き受けたのです。関田牧師は金萬守アボジと鶴見川の辺りにある建設省京浜河川事務所に行って杭の移動を陳情しました。誤解を恐れず言葉にすれば愚か者としか言いようがありません。しかし、たとえそれが不法な要求であろうとも、もの言えぬ在日朝鮮人の代弁者として、その生活を支えるために陳情することは戦責告白の実質化に他ならなかったのでしょう。
話を戻しますが、金萬守アボジは河川敷の家屋(後のヨルダン寮)を関田牧師に500万円で売却したことについて、教会の働きに用いるものを金銭で売ってしまったことを後悔し全額関田牧師へ返しに来ました。しかし関田牧師はその返金を拒否されました。返すといったら返すんだとする金萬守アボジ、渡したものは受け取れないとする関田牧師。互いの意地と思いやりが錯綜して行き場を失った500万円。着地したのは河川敷で生まれ育つ在日朝鮮人の子どもたちの学費支援として「金萬守奨学金」が設立されその運営管理を教会が担うこととなりました。
結果として、川崎戸手教会にとってヨルダン寮は金萬守アボジから関田牧師を経て無償でお譲りいただいたものとなり、更にその過程で金萬守奨学金が生み出されました。

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